包丁を買い替える
日常生活に欠かせない右手を使う活動のひとつが食事の支度です。
腕に負担のかかる趣味などは当面あきらめ、仕事での負担を減らす工夫をあれこれするようになってからも、食事の支度や後片付けの負担の軽減には限界がありました。夕食の後片付けが済んだ後に腕にダメージがたまっているのを感じる日が続くと、出口の見えない徒労感で心が折れそうになりました。
最初の負担軽減策は納豆をあきらめることでした。粘る納豆にあらがってかき混ぜなくても、大豆のサラダパックや豆腐などを使えば大豆食品は食べられると考えたわけです。そんなわけで、大豆や豆腐の入ったスープに置き換えてみました*1。
印度カリー子さんのレシピで作るカレーも気に入っていたのですが、しばらくあきらめることにしました。玉ねぎとニンニク、生姜のみじん切りを念入りに炒める工程があるのですが、腕に与えるダメージが小さくないことに気づいたからです。
このカレーはおいしいだけでなく、市販のルーを使わないので塩分を控えたいときに調整がしやすいというメリットもありました。また、玄米ご飯にかけて毎日のようにカレーライスを食べていた年の健康診断では、腎臓やコレステロールの数値がA判定に回復しました。ヘルシーメニューでもあったので残念でしたが、やむを得ませんでした。
一方で、良い気付きを与えてくれたものもありました。GLOBALの包丁です。値段はちょっと高かったのですが、買い替えて本当によかったと思いました。むしろ、なんで今まで良い包丁を買うという発想がなかったのかと悔しい思いでした。
それまで使っていた包丁も安物というほどではないし、簡易な包丁研ぎでこまめに研いでいたので、さして不満は感じていませんでした。ただ、ニンジンのような固い食材を切ることが苦痛になっていたので、少しでも楽になるなら程度の期待度で試してみたのですが、切れ味の違いに驚きました。1万円を超えるとはいえ、普通の包丁だって数千円はします。大事な道具にかける出費を惜しんではいけないと強く心に刻んだのでした。
腕に負担をかけずにニンジンが切れるようになっただけでなく、切り方そのものにも変化が現れました。固い食材でもちょっと力を入れれば少しずつ切れることがわかったので、刃先から刃元までなるべく長く使ってゆっくり切るようになってきたのです。余計な力は入れずにゆっくり確実でよい。人生の真理に一歩近づいたような気さえしたのでした。
ちなみにその後、細かい千切りまで包丁でやらなくてもよいのでは?と思って千切り器も試してみましたが、今では出番の多い道具になりました。キャロットラペ*2のほかにも、キャロットケーキ、春巻き*3など、案外使い道はいろいろあることを知りました。
良い道具に出会えたことで、腕の負担を減らしながらも美味しい料理を作り続けることができるようになりました。不便を工夫で乗り越えることで、新しい発見や楽しみも生まれるものですね。
(つづく)
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レシピはウー・ウェンさんの『10品を繰り返し作りましょう』で紹介されている「わかめと大豆のスープ」と「ザーサイと豆腐のスープ」です。↑
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上田淳子さんの『フランスのおうちごはん クリュディテ』では、「ドライフルーツのキャロットラペ」「キャロットラペとほたての柑橘のマリネ」「キャロットラペとポークの軽い煮込み」といった展開例も紹介されていて楽しめます。↑
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これもウー・ウェンさんの『10品を繰り返し作りましょう』のレシピです。ニンジンの甘さが際立ちます。↑