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ミニコラム

右腕ブルース①

投稿日:2025年6月10日|最終更新日:2025年6月10日

「腕が痛い」からはじまる不便と工夫の探求記
歯磨きから納豆のかき混ぜ、パソコン作業まで。編集部Fは、ある日突然の腕の痛みで、日常生活が右手にべったり依存していた事実を思い知ることに。お医者さんには「軽い腱鞘炎ですね」とライトに診断されたものの、現実はそう甘くなかった。フットペダルから音声入力、包丁の買い替えまで、彼が試行錯誤で見つけた数々の対処法とともに、1年間の格闘記をお届けします。

利き腕を痛めてしまった

おととしの秋ごろ、たぶん10月ぐらいだったと思いますが、右腕を痛めてしまいました。腕の使いすぎが原因です。何か特定の動きをすると痛むというわけではなく、右手を使う作業をしばらく続けていると、知らないうちにダメージが蓄積していくらしく、やがて痛みが出てくるといった症状でした。

腱鞘炎のようなものかと思ったのですが、いろいろ検索して調べてみても自分の症状にはぴったりあてはまりません。とりあえず、腕に負担のかかる活動はなるべく控えてしばらく様子を見ることにしたのですが、治っているのかどうかがわかりにくいことがこの症状の厄介なところでした。回復したと思っても、しばらく控えていた活動を再開するとぶり返すという繰り返しで、気が付くと一か月が過ぎていました。

 

このままでは先が見えないと思い、近くの整形外科に行ってみたのですが、「軽い腱鞘炎ですね。すぐに治りますよ」という診断にあっけにとられ、気が付くと病院の外にぼうぜんと立っていました。

今から考えると、なぜもっと粘って症状を説明しようとしなかったのかと思わなくもありませんが、診断方法がこれまでネットで何度も見てきた手順とあまりにも同じだったので、張り合いを失ってしまったのかもしれません。

さらに、隣にいた看護師さんの「よかったですね、大丈夫ですよ」と言いたげな笑顔が追い打ちをかけてしまったような気もします。いずれにせよ、「治っているのかどうかがわかりにくい」という厄介な症状は、お医者さんに理解してもらううえでも厄介だったのでした。

 

簡単には治りそうもない、とにかく腕の負担をできるかぎり減らせるようにあらゆる工夫をしてみようと覚悟を決めたのでした。といっても、利き腕である右腕には日常生活や仕事で頼りっぱなしなので、右腕の負担を減らすというのは想像以上に難しいことでした。

朝起きて最初にするのは歯を磨くことですが、歯ブラシを右手に持って歯を磨いていると、前日のダメージが回復しきれていない日は右の前腕に早くも痛みがきざしてきます。朝食の納豆をかき混ぜていると、粘りが強くなってきたころに続行不能になります。ニンジンのような固い野菜を包丁で切ることも負担に感じられるようになりました。

仕事への影響はなんとしても避けたいところですが、パソコンの操作も腕に負担のかかる作業です。それまではあまり意識したことがありませんでしたが、左手よりも右手にかかる負担が大きいことに改めて気づかされました。なによりマウスを右手で操作することが大きな要因ですが、キーボードの配列も右手に働かせる気満々です。上下左右のカーソルキーやEnterキー、Backspace、Delete、Insertといった使用頻度の高いキーがいずれも右側に配置されているのですから。

右腕の負担を減らす方法としてまず思いつくのが、右手でやっていたことを左手に変えることです。とはいえ、比較的単純な作業なら左手でもすぐに慣れてくるのですが、歯ブラシや包丁を持つ手は簡単には変えられません。それでも、切れ味のよい包丁に買い替えたり、キーボード入力の代わりに音声入力を試したり、カーソルキーの代わりにフットペダルを導入したり、マウスを変えてみたりとできることをあれこれ試してみました。大きな出費が続きましたが、利き腕にはかえられないの一心でした。

今はずいぶんよくなり、無理をしなければさほど不便を感じることはなくなり、控えていた活動もそこそこ再開できています。しかし、当時はその後1年以上もこの症状に悩まされるとは思ってもみませんでした。

(つづく)

編集部 F